AI時代は
より人間らしく、直感を信じて、
ハッピーに生きよう。
2019年9月公開
株式会社働きごこち研究所代表取締役
藤野貴教先生に聞く
アクセンチュア、人事コンサルティング会社を経て、東証マザーズ上場のIT企業にて、人事採用・組織活性・新規事業開発・営業MGRを経験。2007年には株式会社働きごこち研究所を設立。そんな藤野貴教先生ですが、27歳の時(2006年)に突然、東京「卒業」を選択し、周囲の方をたいへん驚かせたといいます。しかし同時に、その判断こそが自身の原点であり、まさに人間らしい「直感」であったと振り返ります。AIといったテクノロジーが進化する中で、どのようにしたら人は幸せに働けるのでしょうか。今回は、「テクノロジーの進化と人間の働き方の進化」をメインの研究領域とされている藤野先生に、ご自身の体験も踏まえながら、これからをハッピーに生きるヒントをお伺いしました。
※右の画像は、藤野貴教先生の著書。働き方の専門家として、人工知能が進化する中で、いかに人間として幸せに働き、生きるかというヒントを提案した希望の書です。
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いまのお立場や考え方になられたきっかけや背景をお伺いできますか。
僕自身が就職のミスマッチを経験して、何のために働くのかを考えざるをえなかったから、というのが大きな理由です。がむしゃらに仕事をし続けていたある日、ふと考えたわけです。もともとアクセンチュアという会社で働き、そのあと人事コンサルティング会社とベンチャーを経験しました。いまは「働きごこち研究所」で「いかに楽しく働くか」をテーマに研究していますが、会社員の頃は働くことが「つらいな」と感じる気持ちの方が強かったですね。成果もそれなりに出てきて仕事を任されるようになっても「心はなぜか渇く」んですよ。結婚したばかりなのに残業が続き、なかなか帰れない。
そんな時、「直感」でこのままではいけないと思いました。人間らしい判断ですよね。結果、働く足(となる職場)をかえてみようと意思決定をし、自分の心地よい環境を探すところからはじめました。いまに続いている「どうしたら人は楽しく働けるのかな」ということが、この時から自身のテーマになったんです。ただ、そこになぜテクノロジーという文脈かを考えてみると、働きごこちがよくなったのが、じつはテクノロジーのおかげというのがかなりあって、それを「使っていた」「味方にしていた」ことが大きくあったんだと思います。面白い変化を感じたのが2007年あたり。(東京から)愛知県へ引っ越したあと、起業した頃からスマートフォンが普及しはじめ、社会全体が大きくかわったんです。パソコンとインターネットがあれば、決められたオフィスでなくてもどこでも仕事ができるようになりました。さらに2011年ぐらいから今度はSNSが普及しはじめて、東京にいないとそこにいる友だちとやりとりができない、疎遠になる、という不便さは解消されました。いつでもどこでも誰とでもやりとりができ、距離がある人とも気軽に連絡がとれる。すなわち、人と人との関係性がむしろ近づいたというのを感じました。スマートフォンやインターネットやSNSの普及みたいなテクノロジーの進化が、僕たちの働きごこちをよくしているんだという事実を自ら体験していったんです。
しかし、2015年に人工知能を学びだした時、AIを敵視する世の中の風潮がありました。ですが、自分たちの仕事を奪うということに目を向けるよりも、もっと大事なことがあるぞ、と。むしろ、自分のいまやっている作業の中で、単純で同じことのくり返しの部分をAIが代替してくれるとなった時、人間が人間として、より自分が成すべきことに時間やこころをかけるようになれるから、それは人間にとってハッピーなことではないか、と。なので、僕の本は人工知能時代の「幸せな」働き方になっています。もっと、こんな面白いことができるんじゃないかとか、こんな風にしたら楽になるんじゃないかとか、そういった前向きな明るい未来をテクノロジーと歩みたいですね。
藤野先生の掲げる人間の4つのカテゴリーについて、教育を切り口にお聞かせいただけますか。
AIが得意なこと、苦手なことは何かという視点から人間の仕事を考えた時、4つの分類ができました。詳しくは本に書かれていますが、左側の領域はエクセルっぽい「論理的」「分析的」「統計的」なことを示しています。そして「構造的」とは、マニュアルやルール化されているということです。つまり、エクセルっぽい構造的業務とはAIに代行されていく部分です。一方、右側は人間らしい身体的感覚と深く結びつく「感性的」「身体的」「直感的」な部分といえます。
では具体的にプログラミングの例をあげてみましょうか。ただプログラミング言語を入力していく作業は、左下に分類されます。しかし、何のためにプログラミングするのかと、目的意識を持ったものは左上。右下は、感情を持つ、人と触れ合うことやリアルに体験することが特徴になりますから、チームで新しいロボットを作り、みんなで協力しながらプログラミングを行っていくことがあてはまるんです。ここからいえるのは、AIに代替されるような、プログラミング言語自体をひたすら教えたり学んだりという行為は意味がないということ。これからの時代はむしろ「何のためにやるのか」という目的意識が重要になります。もちろん、人とかかわりながらプログラミングしていくことも人間らしい、とても意味のあることです。ここではプログラミングをあげましたが、英語の場合も同様のことがいえます。
これからの時代において人間らしく働くことの本質とは、どのようなものでしょうか。
たとえば、現在amazonでボタンを押したら、ものが届くのはamazonのテクノロジーと倉庫システムが優れているからですが、最後には宅急便のドライバーの方の苦労があります。また24時間営業のコンビニは外国人労働者によって成り立っていますが、彼らも夜は寝たいと思うんです。いままでは私たちが楽、快適、便利になるために、他の人に苦労をかけないといけなかった。そんなしわ寄せを、これからはテクノロジーに任せていこうという時代なんです。日本では少子化が進み、働き手も減ってしまう。そのしわ寄せをみんなで負うのかといっても、できないですよね。
もちろん、保育の世界でもしわ寄せはあると思います。保育の先生はもともと目的意識や理想をもってなる人が多いからこそ、本来自分がやりたいことをやれていない場合、すごい葛藤を感じるわけです。なので、仕事を行う際は何をやっているのか、何をすべきかを考えて、物事を「最適化」していくことがたいせつです。そうすることで生み出された時間で、先生自身がもっと遊べるようになれば、その体験が子どもたちとかかわる際にもよい影響をもたらし、人間らしく働くために自ら工夫し変化させるということに時間をかけていけるようになるんじゃないかと。そう思うから、テクノロジーがテーマの研修会で、経営者に向けて「書類をなくしましょう」と力強くいってしまう。「それって、そもそも必要あるの?手書きじゃないといけないの?」と……。現場の仕事を見つめ直し、これは本来やるべき仕事ではないと感じた時に最適化するのは、経営陣の仕事だと思います。それを「パソコンはわからないし……」「テクノロジーは、若い子に任せておこう」といってしまっているとしたら、ぜひ見直していただきたい。
そして、何になるのかをなすために、なしたいことをなせるために全員で取り組むことが幸せにつながるんじゃないでしょうか。職員が全力を注げるような環境や体制をつくるのは経営者の役割であって、自らの仕事の仕方を改善していくことが現場の職員の役割だと思います。
職員が仕事の仕方を改善していくために必要な姿勢やヒントはありますか。
職員同士、「何のために仕事するのか、どうあるべきか」を1日10分でいいので、話し合ってほしい。もちろん、やらなくても日常は進んでしまうかもしれない。でも、それは我々にとって、働くことが極めてオペレーショナルになっている、ロボット化している、そのあらわれともいえるんです。「そんな時間ないです」「恥ずかしくて、できない」とおっしゃるかもしれませんが「青臭いことを語る」ことが、すごくたいせつなんです。何のためにやるのかを考えることは目的意識なので、それ自体に正解はありません。何のために保育をしているのか、園事業をやっているかに正解はないわけで、目的を語ることは個人それぞれの自由意志ともいえます。正解がないから意見をいうのが、こわいという人もいるでしょう。「合っているんだろうか」「ちがうっていわれるのでないか」と語りたがらない。でも「語る」というのが「人間の役割」ではないでしょうか。
親御さんにおいてもこんな場面はありませんか。プログラミングなど「○○をやった方がよいですか」と、正解を求めにやってくる状態。親としての目的意識の放棄につながりますから、そこに対して「こうした方がいいですよ」とかいうと、さらに考えなくなってしまうので危険です。そこで「どうしたの?」「何がしたかったの?」と子どもに質問するように、聞くことが大事。子どもを育てる時に、その子の意思を尊重するのと同じように、親御さんとのコミュニケーションも意思を問うことが重要です。その姿勢が、さらに親御さんにとって、子どもの意思を尊重することに深くつながっていくのではないでしょうか。幼児教育が本質的にやっていることは、幼児を教育する親を育てること(親育といったように)とも思います。そして、親に対して問いを立てられるようになるためには、園の先生方が自分たち自身、これは何のためにやっているのかっていう問いを立て続けられていないといけないわけです。
さいごに先生方にむけて、メッセージをいただけませんか。
「子どもを育てることをペッパーくんに任せたいですか」「仮にもう少し色々しゃべれるロボットがいたとして、子どものベビーシッターを任せたいですか」と質問をしても、ほとんどの親御さんがNOというはずです。人間には人間の温かみをもって育てたいと思うからなんです。いずれ、ベビーシッターサービスをロボットが行う時代がくるかもしれない。けど目の前の保護者は、あなたの人間らしさに価値を見出して、自分は働きに出ないといけないから自分と同じように愛をもって、人間らしさをもって子どもと向き合ってほしいと感じているわけです。
それは人間らしい仕事に他なりません。生身の身体を、感情をもっている人間らしさを大事にしてください。そして、そこに加えてほしいのが「あなたは何のために幼児教育に携わっているのか」といった目的意識です。それをもっていれば、およそAIには代替できない価値のあることになります。先生方にはこれからも自分らしく、仕事を楽しんでいただきたいです。