「10の姿」を手掛かりに総幼研教育を深堀りする
パドマ幼稚園研究主任・中島美和子先生とパドマ幼稚園客員研究員・須賀みな子先生による対談抄録
今回の研究事業の特徴として、研究者と保育現場が長期間に渡って共に学びあいながら、共同研究を進めたということがあります。ここでは、保育現場における研究活動とはどのようなものか、また園活動と並行してどのように研究活動が取り組まれてきたのか、パドマ幼稚園研究主任・中島美和子先生とパドマ幼稚園客員研究員・須賀みな子先生による対談抄録を掲載いたします。
そもそもこの研究は、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を総幼研的に深掘りするというテーマでした。最初、お話を聞かれた時どのような感想でしたか。
中島:びっくりして、それから心配になりました(笑)。『10の姿』の内容は大体知っ
てはいましたが、ふだんから総幼研教育に照らして考えることはありませんでしたし、まず私自身が毎日の保育を持ちながらどう両立できるのか、最初は思案してばかりでした。
須賀:私はご縁があって以前から研究者としてパドマ幼稚園の観察を続けていたのですが、今回の委託研究が決まって、現場の先生方と一緒に共同研究会を持つことになりました。現場と研究が一緒に関係を築きながら、継続的に取り組む試みはとてもチャレンジングなものと感じました。
実際の園内の研究体制はどのようなものだったのですか。
中島:はい、まず園内に担任を持たないフリーの職員4名で研究チームが発足しました。いずれも10年から20年近いキャリアです。そこへ須賀先生にも参加していただき、月に1、2回、メンバーが集まって課題について討議をしました。年度の後半からは学年主任にも参加してもらって各学年に即した話しあいも重ねました。並行して園児の観察や動画記録もはじめました。
須賀:メンバーの先生は保育が終わってからの研究会でしたからお疲れだったと思います。でも今回、保育者のテリトリーを全てオープンにしていただいたことで、観察者である私と保育への関心を共有しながら進められた意義は大きかったのではないでしょうか。もちろん両者の視点が異なってくることも多いのですが、それをお互いが新鮮に感じあうことができたことも共同研究ならではと思います。
具体的な研究活動の進め方はどのようなものでしたか。
中島:『10の姿』だからといって、いきなり10の仕分けの作業に入るのではなく、まず日頃の保育を見直すことからはじめました。『保育者のための自己評価チェックリスト』(萌文書林)を使いながら、現状の保育の再点検をしたのですが、できていないことも含め気づかされることが多くありました。でもそれがあって、保育のとらえ方の発見といいますか、日案には書いていない個々の子どもとのふれあいや、先生がどこに意識を向けるか、すきま時間をどう使うかなど、これまでなんとなくやってきたけれど、実はこうした部分が子どもの発達には重要ではないかと気づくことができました。これは、子どもの観察、見方を変えていく最初のきっかけになったと思います。
須賀:くわしいお話は報告書を見ていただきたいのですが、やはり観察のためには記録がとてもたいせつで、また記録には言語化がとても重要でした。
中島:はい、苦労もありましたが、やはりことばにすることで、先生たちが自分の考え方や見方を開示できたり、共有できたことが大きな成果でした。
研究と現場が共同研究する意義とはどのようなものでしょう。
須賀:私のような外部の研究者がいるからではなく、よい意味で先生たちが研究者視点を自分自身に住まわせながら、今後の実践にあたっていくというのが理想ではないでしょうか。中島先生がおっしゃったようにあえて現場から距離をとることもたいせつだし、あるいはいつもと違う観点から考えたり、少し立ち止まって問題を考え直すとか、そういう広い意味での研究者視点を保育に活かせる可能性が一番大きいと感じています。
中島:私は新卒入職以来18年間、パドマ幼稚園に勤めてきましたので、当園のよさ、総幼研教育の魅力はよく理解できているつもりです。今回の研究会ではそれを下地にしながら、別の見方、別の角度からとらえ直すことで、さらなる魅力向上を図るという姿勢が一貫しており、私の保育者人生にとって貴重な経験となりました。研究者視点というような大それたものではありませんが、そういう広い視野をもってこれからも総幼研教育に貢献していきたいと思っています。
中島美和子(パドマ幼稚園研究主任)
年少3歳児および年中4歳児の担任、最年少2歳児の学年主任を経て、学年メンター、新年度から現職。2児の母親。
須賀みな子(パドマ幼稚園研究員)
京都大学大学院教育学研究科修了。相愛大学ほか養成校で保育者育成に当たる。3児の母親。
論考
「総幼研の教育システム(型)から、これからの子どもに必要な力を考える」パドマ幼稚園研究担当 須賀みな子
上述のように、研究者と保育者が丁寧に関係を築きながら、今回の共同研究は進められました。ここからは、須賀みな子先生よりこの度の研究報告書に寄稿いただきました論考「総幼研教育の教育システム(型)から、これからの子どもに必要な力を考える」を掲載いたします。
論考(PDFファイル全7ページ 1.2MB)