第15回 キャリアアップへの挑戦と、学びの機会の担保とは。
『AI保育革命「福祉×テクノロジー」で人口問題の解決に挑む』
貞松成著 プレジデント社刊
千葉県を中心に認可保育園を全国に展開する保育グループ企業の社長による著作である。待機児童数が減少を続けるいま、必然的に選ばれる存在だった保育園にも、時代の流れに沿った変化が求められている。「未就学児に最適な教育を提供する施設」への転換である。本書は、著者のこうした実践についてまとめたものである。「AI保育革命」というだけあって、内容はチャレンジングなことばかりだが、最も刺激を受けたのは職員のキャリア形成に対する取り組みである。ここではそこに絞って紹介しよう。
職員が主任や施設長にキャリアアップする際、現場の保育とは異なるスキルが求められる。主任ならば、各保育士とのコミュニケーションスキルや、園の理念をきちんと理解し、現場に浸透させるスキルが求められるだろうし、施設長なら、園の課題を抽出する問題解決スキルや、人員の適正配置と行動を促すマネジメントスキルなどが欠かせない。しかし、多くの現場では保育以外のことを学ぶ機会がなく、勤続10年を超えても「責任者になりたくない」と考える保育士も多い。職員の業務範囲が限定されており、狭められたキャリア像しか持つことができないのである。
この園におけるキャリア形成の軸は、オリジナルの「ライセンス制度」である。職員が主任や施設長に昇格する際、筆記・面接・プレゼンテーションの試験を行い、個々人の実力を測定するのだ。主任ライセンスでは保育の理念について、施設長ライセンスになると、問題解決やワークスケジュール・収支計画作成などのスキルについてテストを受ける。こうした試験に合格した、適格な実力をもつ人材が立場につくことで、当人だけでなく周りにも優秀な人が育っていくという。
また、専門性向上を目的とした研修も別に用意されている。5つのカテゴリー(保育・障がい・介護・食育・共生)それぞれにメンバーが選抜され、外部研修参加や民間資格取得を通じて学びの場が設けられるのだ。諸外国の保育の実状を学ぶ海外研修もある。さらに施設長ライセンス合格者には、研究者との連携のもと、なんと2年ごとに査読付き論文執筆まで課されている。恒常的に学び続けられる環境は決して負担ではなく、本人や園全体のやりがいに直結するということなのだろう。
これは、保育園グループだからこそできる特異なケースかもしれない。しかし、職員が自らキャリアを見出していける学びの機会を担保することに、園の規模やスタイルによって制限されるとは思わない。
秋田光彦