第13回 園の価値を伝える「本音のことば」が、ファンをつくる。
「ファンベース ―支持され、愛され、長く売れ続けるために」
佐藤尚之著 筑摩書房刊
「ファンベース」とは、ファンをたいせつにし、ベースにして、中長期的に売上や価値を上げていく考え方のこと。電通出身の著者のバリバリの広告戦略本かと思いきや、著者の論は古くて新しい。幼稚園・保育園の経営に引きつけて読むと面白い。本書において、ファンとは「企業やブランド、商品がたいせつにしている『価値』を支持している人」のことである。園にたとえれば、やはり保護者が、その園の価値を支持するファンとなりえるのが想像しやすい。たとえ少数であっても、すでに身近に存在するファンをたいせつにする姿勢によって、口コミで「あの園は、ほんとうにすばらしいよ!」と支持の輪が広がっていくのだ。
そこで、ファンの気持ちをつかむ3つのポイントとして、価値に対する「共感」「愛着」「信頼」が紹介される。まず「共感」だが、ファンはうちの園のどんなところが好きなのか、それを傾聴することからはじめる。もちろん園長や主任の考えも重要なのだが、つい内側だけで園の価値は何かを判断しがちである。たとえばファンミーティングを開催し、園の価値を共に改善するつもりで、様々な人の声を聞き取ってみる。そこに集まるファンもまた、そのプロセスを経て「そうそう、そこがよいよね!」と価値に改めて共感することになるだろう。
次の「愛着」とは、つまり「うちの園の価値は、他園には代えがたい」と思ってもらうことである。そのためには園設立から現在にいたる歴史、また保育や事務にかける苦労など、多くの立場からストーリーやドラマが語られることが欠かせない。この園にいる「人」や、その「思い」に触れて、はじめて園の価値はかけがえのないものになる。また、ファンになってくれた人が日常的に園にかかわることのできる場づくりもたいせつだ。
最後の「信頼」は、真の意味で園の評価・評判を上げ、信じてもらうことである。日課や行事など、中心的活動のプロセスを細部まで公開し、ときに失敗や試行錯誤も含めて、日々いかに丁寧に臨んでいるかを伝えてみるのはどうだろう。また、内部の職員の信頼なくして外部のファンもあり得ないという指摘は納得できる。職員にわが園のミッションは伝わっているだろうか。共感されているだろうか。
本書の核心は、人のこころを動かし、園の価値を伝えていくのは「本音のことば」だということである。オーガニック・リーチという新語が紹介されるが、その波及効果はSNSなど到底及ばないという論は痛快だ。園長が、まず自園のあり方を考え直す貴重な参考書となるだろう。
秋田光彦