第6回 これからの園経営と「アート的思考」。トップの美意識を問う。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?経営における「アート」と「サイエンス」 』
山口周著 光文社新書刊

ビジネス新書のベストセラー。読みやすく、発見が多い。園の経営者にこそ腑に落ちるのではないか。本書では、経営の意思決定として「クラフト」「サイエンス」「アート」の3つを挙げる。クラフトは「経験則による」ものだが、年長者ほどありがたられ、昔ながらのパターナリズムを生んでいく。いま主流のサイエンス的な考え方は、データや分析を駆使して論理的に正解を導き出すが、詰まるところ、答えは必ず同じようなモノになり、「正解のコモディティ化」を招いている。

そもそも現代は問題が複雑多様化しており、サイエンス信奉が全ての問題解決にいたる訳ではない。そこで、著者はクラフトでもサイエンスでもない、直観や感性に頼ったアートによる意思決定に注目する。アートというと、クリエィティブやデザインを連想するが、本書では「リーダーの美意識として、経営における『真・善・美』を判断する認識のモード」と定義する。ビジネス書に「真・善・美」とは驚くが、ここが園経営に大いに通じる。子どもの教育はもちろん、保護者の啓発、職員の育成、地域貢献など、これらをただ「利益追求」だけで押し通すことはできない。トップの美意識が必要なのだ。

「世界の市場が自己実現消費に向かっており、そのような世界の中では他人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性や美意識の方が大事」だと著者は述べる。 他人から認められたり、自分を高めるものを欲する高次な欲求に応えられるのは、情緒的ベネフィットであり、これからはアート的思考だという指摘も面白い。教育熱心な保護者が何を園に求めているのか、それをどう言語化して伝えていくのか、園長として考えるヒントとなるだろう。

もちろん、筆者はサイエンスを否定しているのではない。サイエンスとアートのバランスこそ大事だというのだが、両者が論争すれば、論理や数値に劣る分、アートは敗北する。だから筆者はアートを経営のトップにおいて、サイエンスとクラフトで脇を固めるパワーバランスが必要だというのである。アップル、スターバックス、ウォルトディズニーなど米国有名企業の先例も紹介される。

では経営者はどのように美意識を鍛えるのだろうか。筆者は「絵画」「文学」「哲学」に親しみ、「詩を読む」ことだ、という。「人の心を動かす表現にはいつも優れたメタファーが含まれて」いて、それは詩の中にある。コンサルは、データを駆使してシステム導入を勧めるが、すぐれた園長には詩人の側面があるのかもしれない。

秋田光彦

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