転んだら手がつけない、まっすぐ走れない、うまくしゃがめない等々、子どもの身体機能に異常が目立ってきています。栄養は行き届き、体格は立派になったというのに、逆に子どもの身体のロコモティブシンドローム(老化現象)が深刻視されています。
先日、スポーツ庁が、2016年度の体力・運動能力調査の結果を公表しました(10月8日)。子ども関連で際立ったものが、今回はじめて調査された、就学前の運動経験が小学生になってからの体力にどう影響するか、というデータです。たとえば小学5年生の男子で「幼稚園時代に週に6日以上」外で遊んでいた児童の体力テストは、80点満点中、58点と、「週1日以下」の児童に比べ5点も差があるなど、その違いは歴然としています。簡単にいえば、幼児期に経験した運動の質量が、その後の小学校時代の体力を担保する基盤になっているということなのです。
逆にいえば、幼児の身体能力の退化は、小学生の体力ダウンをうむわけで、基本動作は幼児期にこそ育てておかねばならないとスポーツ庁も警鐘を鳴らしています。
子どもの身体機能の劣化には、いくつか原因が考えられます。少子化になって子ども集団の運動あそびがなくなった。安全対応が優先されて、チャレンジングな子どものあそびがなくなった。さらにスポーツ教室の隆盛で、特定のスポーツ技能が発達するが、幅広い動きが身につけられていないなど、いろいろ考えられます。
要は身体機能はありながら、それが十分に発揮できる環境にないのです。
文科省は2014年に「幼児期運動指針」を制定、幼児が楽しく身体を動かす時間を「一日60分以上」と定め、「多様なあそび・さまざまな動き」を経験し、「発達の特性に即したあそびを提供すべきと提言しています。
「発達の特性に即した遊び」とは、3歳なら3歳なりに5歳なら5歳なりにその運動が楽しめて、それをやり遂げた有能感を体感できるということ。言い換えれば、自分の内部にある「身体機能」を十分に使い尽くした「機能快」に満たされるということなのです。テレビやゲームの前では、身体機能はほとんど発揮されないままです。
文科省は、地域の伝承あそびとして押しくらまんじゅうやかくれんぼなどを推奨しますが、少子化とあそびの個人化が進んだ現代では、それは無理というものでしょう。であればこそ、安全な環境にあって、指導者と子ども集団に恵まれた幼稚園での運動が、幼児期にはまず第一義といえるのではないでしょうか。
当園の体育ローテーションは、様々な動きを流れの中に取り入れたメニューを毎日くり返します。できるできないという評価ではないので、子どもが心から楽しめる。
それによって、小さいながら自分の身体を使い切った機能快を満喫することができるのです。
10月14日に運動会を終えました。伸びやかな子どもたちの身体からこみ上げていくよろこびを感じて、そんなことを考えていました。