まずは熊本地震で被害にあわれた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。被災地の一日も早い復興を心よりお祈りいたします。
入園・進級して3週間が経ちました。初めての園生活、クラスの仲間との関係づくりにおいては、いかに信頼のコミュニケーションを交わすのか、がたいせつになります。
幼児の場合、コミュニケーションはことばのみとは限りません。そのことについて、霊長類学者で、京都大学総長でもある山極寿一さんが興味深いことを述べています(産経4月4日)。遥か原始の時代、人間は長い間せいぜい160人以下の集団で、ことば以外の、身振りや表情や声を用いたコミュニケーションを用いて暮らしていたというのです。
類人猿と人間は、対面するという行為と、直立二足歩行が共通した特徴です。向き合うことは同調を誘います。二足で立ち上がるので、手が自由になり、身体を使って同調しやすくなる。さらに手で体を支える必要がなくなったので、胸の圧迫が弱まり、自在に声を出せるようになった、といいます。「人間は進化の初期に、踊る身体と音楽的な声を手に入れたに違いない」のです。
幼児教育において、ことばは極めて音楽的な要素を備えています。総幼研の日課活動では俳句や名詩を音読しますが、そこでのことばは意味ではなく、リズムやテンポ、抑揚などを身体で楽しんでいる。それをひとりではなく、仲間とともに、集団で取り組むところが大きな特徴です。
山極さんはこう述べています。
「音楽とことばはよく似た特徴を持っている。どちらも音を組み合わせて、規則を持った旋律や文章を作る。しかし、音楽はことばのような意味ではなく、感情を伝える。音楽によって人々は感情を一つにでき、互いの境界を乗り越えて、密接な協力関係を結べるようになった。つまり音楽は人間の共感を高め、互いに思いやる心を発達させて結束力を強めたのだ」
音楽は、五線譜に描かれたものばかりではありません。テンポよく発せられることばも音楽だし、リズミカルにスキップする身体にも音楽があります。
新しい園生活において、じつは仲間どうしのコミュニケーションを育んでいるのは、こうした身体の動きや意味を問わない声や表情であり、それがクラス集団の一体感、連帯感を作り上げているのです。信頼関係の最初に、まず音楽があったのです。
さまざまなツールが発達して、私たちは動かずして、また向き合わずして、コミュニケーションができるようになりました。しかし、だから信頼は深まったといえるでしょうか。幼児教育の現場から、遥か原始より人類が築いてきた信頼関係の原点を知ることができる。そう思うのです。