■凹みと気づき
新年度の採用試験の面接でのこと。養成校出身の4回生と卒論の話になり、内容を尋ねてみました。なんと「(幼稚園)教育実習の負の実態」だそうで、その動機が「先輩や同輩が、教育実習を終えて凹んで帰ってくるから」だったとか。「実習に行って、この仕事を諦めた友人もいます」。驚きました。
養成校の知人からも、ネガティブな噂は色々聞いてきました。「実習先では下働きばかりさせられて、ろくに指導がない」とか「反省会では現役担任から否定的な話ばかり聞かされる」とか、事実だとしたら凹むのはわかるような気がします。
今は園長先生の喫緊の課題は、深刻な人材不足であり求人問題です。少子化のうえに、職種も多様化していますから、なり手がなかなかいない。実習には来たが、就職は企業に内定という学生も珍しくありません。
しかし、資格取得上の制度にせよ、何週間も続く教育・保育実習は学生にとって決して小さな経験ではないでしょう。ましてやこの職業を選ぶなら、生涯設計に直結する大きな転機となりうるものに違いありません。教育実習でモデルとなる保育者と出会い、自分の将来目指すべき姿を見た学生もいます。
実習が即青田買いでないことは承知していますが、実習でプラスの経験が得られなければ、総じて保育者を志望するモチベーションは下がるでしょう。やれ重労働だ、低待遇だと、メディアはいいふらしますし、学生の親も昔ほど賛成派は多くありませんから、求職にいたるには結局、本人の強い意志が不可欠です。実習はいわばそのたいせつな試金石ともいえるのです。
■実習生は自園を問う他者
もうひとついえることは、実習生はつまりその当該園の文化や気風に臨むのであって、指導やコミュニケーション以前に、私たちの足元こそ見られているという点です。もしも職員関係がギクシャクしているならば、よい実習など絵に描いた餅でしょう。ベテラン保育者が、普段は育成を怠っているのに、実習生にだけ秀でた指導をするとは思えません。まさに実習の充実とは、園そのもののバロメーターなのです。
そう考えると、実習生はある意味で、自園の実体を問う他者的存在です。実習担当の保育者は、なぜこの教育なのか、その意図や子どもの発達段階や経験等について説明したり、また自分自身を振り返ることで、「保育を言語化し、省察を行う機会」を得ます。
あるいは学生の前向きな態度に刺激を受けたり、気づきを得ることも少なくないのではないでしょうか。学生が一人ひとりの子どもに丁寧にかかわる姿勢から、自分が保育者を目指した初心を思い出し、意欲を新たにした人も多いはずです。
ある総幼研の園では、実習生(3年生)の就職率が半分以上だそうで、実習が契機となって4年生になるとインターンやボランティアで早々と戦力になってくれていると聞きました。実習で特別なことはやっていないが、毎日担当者が丁寧にこたえる、認める、子どもの成長を喜びあう、そのくり返しだそうです。総幼研の保育同様、共鳴・共感・共体験なのです。
求人問題に即効薬はありません。しかし、まずはそうした幸せな実習経験の積み重ねが、遠回りだとしても、現在の人材不足を緩和する糸口になるはずだ、と思うのです。