ICTの時代、 改めて幼児教育の役割を問う。

■児童ひとり1台のiPad
8月初旬、第4回関西教育ICT展に参加してきました。ICT(情報科学技術)がこれからの教育にどのような影響を与えているのか、いや、すでに進行しているのか、所狭しと集合した教育とテクノロジーのリアルに驚嘆しました。紹介されていた多くの小学校では児童がノートの代わりにiPadを操り、黒板に代わって大型ディスプレイが採用されていました。並行して来年からプログラミング教育もスタート、いずれAIによる個別指導といったこともあたり前の事例になるのでしょう。科学技術によるイノベーションは私たちの実感以上に加速している印象を受けました。
また保育の現場でも試行錯誤がはじまっているようで、はじめて園向けの「ICT利活用コーナー」が設けられていました。まだ管理部門が主流といえど、今後の指導計画やドキュメンテーションに画期的な影響を与えることでしょう。一部で進んでいる「デジタル保育」の行方も気になるところです。

■アナログとデジタルは反目しない
もちろんいきなり毎日の保育活動にiPadを導入すればよいという訳ではありません。ツールがどれだけ進化しても、それを用いることで、「何を伝えるか(伝わるか)」「何をはぐくむか(はぐくまれるか)」といった視点は失ってはならないと思います。たとえばICTは人間の身体の限界を超える機能(見たことのない野鳥の姿を見たり、知らない国の言語が聞ける等々)を持ち備えています。しかし魅力的だ、便利だからと、いたずらにデジタルばかりを活用し、生身の身体機能を衰弱させては本末転倒といわざるを得ません。スマホ絵本が親の読み聞かせ時間を消失しかねないのと同様に、ツールに使われてしまっては、幼児期に大事なものまで見失ってしまいます。
すなわちICTの進化のスピードが早いゆえ、いまのうちに保育の現場は、より「リアルな体験」「アナログな保育」の意味づけをしっかり考えておかなくてはならない、そう問われているのではないでしょうか。
たとえば「身体」。幼児が「動く」ということは、体づくりの基本である以外にも、関係づくりやコミュニケーションの源泉です。体育ローテーションの中にも、望ましい人間関係づくりを促す場面がたくさんありますが、そこにはデジタルでは体験できないリアルな「協同性」の実現が含まれていることがわかります。
しかし、一方で運動会の練習風景をビデオで収録して、大きなデジタルスクリーンで振り返るという体験はICTならではのもので、子どもたちに大きな気づきを促す機会ともなるでしょう。またウェブ上の全球型(360度)観察図鑑やデジタルアートなど、いままで以上の発見を子どもたちと楽しんでいけるコンテンツも出てきており、それらが子どものより能動的な興味や意欲を喚起するものになっていくのかもしれません。つまり、アナログであることとデジタルであることは決して反目しないのです。
「9割のアナログ保育と1割のデジタル保育」とはデジタル保育で有名なつるみね保育園の園長先生のことばですが、要は両者のバランスであり、それを見越した緻密な保育計画なのでしょう。
新奇なものにおもねるのでもなく、またこれまでの慣習にしがみつくのでもない、バランスのある保育。総幼研教育はそのどちらにとってもたいせつな基盤でありたいと願うものです。

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