コロナ禍生活3年目。 共鳴、共感、共体験と人間発達。

■マスクによって脳は退化する?
私の暮らす大阪では三度まん延防止措置が延長となり、一向に落ち着く気配がありません。当該地域では、年度末の恒例行事、特に卒園式の縮小や自粛に苦慮された園長先生も多いのではないでしょうか。
パドマ幼稚園では去年の時点で、卒園式の園内開催を諦め、近くの大ホールを借りて準備してきました。1100名収容の会場なので空間的には問題ないのですが、まん防延長となったため、ここでも園児はマスク着用はもちろん、壇上で披露するうたも音読も抑制せざるを得なくなりました。
卒業年度は園生活の集大成であるはずですが、卒業、進学に向けてどれほど希望を紡ぐことができたのだろうか、考え込んでしまいます。
マスク着用が、乳幼児の脳や心の発達にどういう影響を与えるのか、京都大学の明和政子教授(比較認知発達科学)が新聞に寄稿しています(朝日新聞3月6日)。
「脳の発達のしくみを考えると、視覚野や聴覚野の感受性期にある子どもたちが現在置かれている状況を、軽視することはできません」「前頭前野の発達にも環境が大きく影響します。共感できてうれしい気持ち。分かり合えず残念に思う気持ち。それを味わえる日常の経験が必要なのです」とあり、それが損なわれている現状を指摘しています。
さらに、米国のブラウン大学による昨年の調査結果が紹介されています。コロナ禍以前に生まれた生後3ヵ月から3歳の子どもたちと、コロナ禍で生まれた同年代の子どもの認知発達の平均値では、前者を100とした場合、後者は78まで低下しているといいます。原因は特定できないそうですが、子どもたちの身近にいる私たちも、知らぬ顔はできないのではないでしょうか。
保護者よりも長い時間を共有する保育士らの表情が「凍結」されて、丸2年が経ちました。さらに未満児にもマスク云々の声がありますが、疫学的影響以上に、それが子どもの脳の発達に対し、また将来の人格やコミュニケーションにどれほど悪影響を及ぼすのか、「ニューノーマル」といわれてもにわかに承服しがたいものがあります。

■情報で感情は伝わらない
リモート保育はあまり聞いたことはありませんが、現状でもリモート授業を推進する小中学校は多いでしょう。それも次善の策かもしれませんが、しかしICT教育が悪乗りして、小学校をメディアセンターにしてはいけないと思います。学校や園は集う場所であり、子どもたちは目と目を合わせ、つながりあわねばならない。今の風潮では、そういう大原則でさえ、「代替可能」とされそうで、違和を感じます。
同じく朝日新聞(2月3日)で脳科学者の川島隆太・東北大学教授が、オンラインによって子どもたちのコミュニケーションのあり方が大きく変質していると指摘しています。科学的分析に基づき、「オンラインは、(中略)情報は伝達できるが感情は共感していない、相手と心はつながっていない」「これが多用され続ければ、『人と関わっているけど孤独』という矛盾したことが起こってくるのではないか」と警鐘を鳴らしています。マスクにせよオンラインにせよ、子どもの発達環境としてはけっして常態であってよいはずがないのです。
総幼研の言語日課、体育日課では、今日も先生たちがマスク越しに笑顔や大きなジェスチャーでがんばってくださっています。共感、共鳴、共体験をどう感受していくのか。この時代だからその姿は尊くもあり、また人間発達にとって実に重要なことと改めて感じるのです。

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